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第7回:新人合宿③-2

ぱたぱたぱた。

テントを静かにたたく雨の音で、薄暗い中、ぼんやりと目が覚める。

スマホを見ると4:01。

ああ、まだ起床まで1時間あるや。また目をつむった。


次は目覚ましの音で叩き起こされた。4:50。

目を開けると、視界には緑がいっぱいに広がる。

ん?ここどこだ・・・?ああ、そうかテントか、テントが緑なのか、と思った。

小鳥が、チュンチュンとさえずる。雨は止んだらしい。

誰かがテントを、ジーと開ける。ああ、もう起きるの、早いねぇ。

・・・誰かがコッフェルを、カタン、と言わせた音でハッとした。

やば、起きなきゃ。私は食糧担当だから、みんなよりちょっと早く起きて水を沸かさなきゃなんだった。

私もテントを開けて外へ。冷たい新鮮な空気がおいしい。うーん、体の節々は痛いな・・・

おはようございますーと寝起きの気怠い声で挨拶をしながら、みんなが朝ごはんの春雨スープのために集まってくる。

さて、今日もがんばるぞ。


本日合宿2日目。目指すのは金峰山。去年はコロナで合宿がなかったので行けなくて、今年の新人合宿の前二つの日程も、天気が崩れて断念。

今回は快晴とまでは言わずとも、結構晴れてるし、暑すぎも寒すぎもせず、ちょうどいいくらいだ。

荷物をまとめて準備体操をして、二隊と、「んじゃまた山頂で」と言いつつザックアップ。


開始5分。

早くも、息が上がる。

・・・?、少し違和感を覚える。

あれ?おかしい、何だか足が、踏ん張りがきかない・・・内心焦った。ああこれは、きっと、これが初めての縦走2日目だからだ。

まぁでも、初めてだけど、たぶんなんとかなるだろ。人というのは、未知なものに恐怖を抱きやすいのかもしれないし。今は疲れが溜まっているだけだ。と不安を一旦吹き飛ばす。

いやそれにしても、何日も山にこもって山から山へ縦走するハイカーというのはすごいなあ、と心底思った。


開始20分。

それでも少しずつ歩みを進めていけば、だんだん安定してきた。ちょうどいいくらいにきつい。今後の工程を考えると、少し不安は残っているけれど・・・

周りを見る余裕も少し出てきた。

苔むした岩を隣に眺めながら、石っころや根っこに気をつけて、ザッザッザと歩いてゆく。ひんやり、森の空気が心地よかった。


もう開始何分ぐらいの出来事かわからない。

ただ、ひたすら、目の前の坂を無心になって登り続けるだけだった。

ああ、きつ。痛い。苦しい。なんでワンゲル入ったんだ自分・・・

休憩やポイントの度に地図を見て、次が急坂かどうかで一喜一憂していた。

決して、私はスピードが早い方ではない。体力も自信がない。言い訳だけど、中高時代は文化部だった。


大きく隊に間隔が開くことなく進んでいるのは、先頭を務めるそういちろうと、しんがりの優花さんのおかげだろう。いい感じに全体のスピードを見て合わせてくれる。

ああ、申し訳ないな、私のせいで遅くなってるな。

でも多分、それを伝えたとしても、2人とも、大丈夫だよ頑張ろうよ、と言って、嫌な焦りを感じさせないんだろうなぁとも思う。2人の優しさに感謝だ。

だから、自分の「山が嫌いにならない程度に頑張れる速度と歩幅」で進んでいく。一歩ずつ、一歩ずつ。甘えてしまってはいるけれど・・・


気付いたら、鎖場を過ぎ、大日岩を過ぎ、視界がパッと開けた。森林限界を超えて、ハイマツが出現する。

晴れている。ちょっと雲はあるけれど、青空はしっかり見える。遠くに富士山だって見えた。ふっと通り抜けた風が気持ちいい。なぜだか、泣きそうになった。(多分、ただ眩しかっただけなのだが・・・)


でもここからもなかなかキツかった。大きな岩がゴロゴロしていて、アップダウンが激しい。

山頂が見えている。美しかった。青空と緑と地面の黄土色がくっきり。五丈岩もくっきり。でも、近づいているようでまだ遠い。

疲れた足がもう頼りなくて、岩を登るとき、腕も使ってよっこいしょと全身で進んでいく。

自分の頑張れる範囲で頑張る、と、限界を超える、の葛藤の狭間で揺れながらとりあえず進む。進む。進む。


進んでいたら、気がついたら山頂だった。


それは美しい眺めだった。


雲海が所々に広がっているけど、遠くに山々も見える。

ああ私こんなん登ったんか、と来た道を振り返る。

昨日はアレに登ったんか、と瑞牆山を眺める。

本当に恵まれた、いい天気だった。


そういちろうが五丈岩に登るのを、ザックの中で押しつぶされたアンパンをもぐもぐしながら、みんなと眺める。

登りきったとき、思わず他の登山客からも拍手が沸いた。


しばらくすると二隊も来て、全員無事登頂完了。

おつかれーと言い合いつつ、集合写真を撮る。一年生同士が、キツかったねーと案外仲良くしゃべっていて、思わず嬉しくなってしまった。


この山での景色をもう少し見ていたいと思ったけれど、別れを告げて帰路へ。

帰りは行きよりも会話が弾んだ。

まなさんが、この山行の3日ほど前に、実は授業で富士山に登っていたこと。来楽が、テント内に置いて行ってよかったのに、シュラフやマットを持ってきていて、「え!持ってこなくてよかったんすか!」と驚いていたこと。休憩中、そういちろうがゴミ拾いを始めたら、亮介もおもむろに手伝ってくれたこと。いやいや、なんだかみんなすごいなあ。2年の私だけど、上からも下からも、学ぶこと、尊敬することはたくさんある。


テン場について、テントを片付ける間は、もう頭は温泉のことでいっぱいだった。忘れ物を何度も何度も確認して、下山した。下山途中、湧き水を汲んで、これで氷を作って、かき氷パーティーしよう!と優花さんと約束した。

さて、いよいよ温泉へ。最高に気持ち良くて、お湯に使った瞬間、ぷふぁあああ、と思わず言ってしまった。


帰りの電車に揺られながら、ああ終わっちゃった…また明日から月曜か…課題やばいな、やだな…と、目の前の席でこっくりこっくりしているひなこちゃんを見ながら、疲れて働かない脳で考える。


自分は、まだまだ、だ。こんな体力と知識じゃ、先輩たちも安心して次の代に部を任せられない。それどころか、夏合宿だって心配である。

でも、正直、山はめちゃキツイし、なんでわざわざこんなことやってんだ自分…と思う。いつもだ。情けなくなる。


だけど、それと同時に、また山に行きたい、と思う。もっといろんな景色を見てみたい、もっと挑戦したい、そのためにもっと頑張ってみたい。


今回の合宿、楽しかった。元気をもらえた。行けてよかったと本当に思った。また明日からがんばろう、と思えた。(課題はいやだけど。)


300字程度、と言われていたのに、書きたいこと、感謝、クスッと笑えること、尊敬の念などを書いていたら、思わず2500字を越えていた、笑。それこそ課題並である。

ここまでつらつらと書いてきた私に付き合って読んでくださった方、ありがとうございました。

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